AX まさか勝てるとでも?(私が) むかしむかし、あるところに。(原作:昨日見た夢)










     
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むかしむかし、あるところに。(原作:昨日見た夢) 

むかしむかし、あるところに「桃太郎」という女の子がいました。

もちろん、ほんとうの名前ではありません。
ほんとうの名前は、桃といいました。



桃太郎には両親がいませんでした。
彼女を育ててくれたのは、髪がまっ白なおじいさんとおばあさんです。
物心付く前から、ふたりは桃太郎にこう言って聞かせてきました。

「お前は、川を流れてきた桃から生まれたんだよ」

子供がどうやって生まれるのか分からない桃太郎は、そういうものなのかと疑いませんでした。

桃太郎には友達がいませんでした。
高い塀で囲まれた敷地の外に出ることを、固く禁じられていたからです。
しかし、そうでなくとも元々桃太郎の家は、山奥の一軒家でした。
桃太郎はおじいさんとおばあさん以外の人を一度も見たことがありませんでした。
いつも、外に出たいなあ、友達が欲しいなあと思っていたけれど、言い付けは守らなければならないので我慢していました。

歳が数えで十になる頃、桃太郎はほんとうのことに気付きました。
自分が桃から生まれたのではないということ。
自分とおじいさん、おばあさんの姿が全然違うのは、血が繋がっていないからでも歳が離れているからでもないということ。
きっかけは、倉のすみっこで見つけた本で知った「髪」のことです。

人は、歳をとると髪が白くなります。若い頃は黒い色です。

自分のような、金色の髪をした人はいないようなのです。

桃太郎は今まで真剣に考えたことのなかった「人」というものについて、おじいさんとおばあさんに気付かれないように調べはじめました。外には出られないぶん、本と時間だけはたっぷりありましたから。
人がどういう生き物か、などということが書かれた分かりやすい本はなかったのでとても苦労しましたが、それでもいろいろなことが分かりました。

青い瞳の人はいないこと。
白い肌の人はいないこと。
人は桃からではなく、女の人から生まれること。

そして、人と姿は似ていても、通う血も心のつくりも違う、恐ろしい生き物がいること。

その生き物のことを、人々は「鬼」と呼んで忌み嫌っていました。

自分は桃から生まれた人ではなく、鬼から生まれた鬼だったのです。

桃には破邪の力が宿るとされており、鬼が苦手とする果物だという迷信があることも知りました。
迷信だと分かったのは、桃太郎も、おじいさんも、おばあさんも桃が大好きだったからです。

なぜ桃から生まれた、などと言い聞かされてきたのか。
なぜ桃という名前を付けられたのか。

お前は恐ろしい鬼なんかじゃない。

いつか自分がほんとうのことに気付いた時、言葉にしなくてもそれが伝わるように。
きっとそういうことなんだろうと、桃太郎は思いました。

桃太郎はおじいさんとおばあさんにずっと守られていたことを知り、外に出たい、どうして出してくれないのか、と心のどこかで恨んでいたことを恥じました。
ふたりに聞かれないよう、布団に顔を埋めて声を殺して泣きました。

それから数年は、平穏な時が過ぎていきました。
その間、おじいさんとおばあさんは、一度も鬼のことを口にすることはありませんでした。
桃太郎は「ふたりが天寿を全うした後、自分はどうなるのだろう」という不安を抱えたこともありましたが、やがてどうでもよくなりました。
それくらいふたりのことが大好きで、感謝していて、幸せだったのです。
この、人とは違う長い金色の髪を、青い瞳を、白い肌を、綺麗だと褒めてくれるおじいさんとおばあさん。
ふたりと一緒の時間が、少しでも長く続けばいい。後のことはどうとでもなる。
そう思っていました。

しかし、おじいさんとおばあさんが天寿を全うすることはありませんでした。

ある日、突然家に押し入ってきた鬼に殺されてしまったからです。
桃太郎と同じ、金色の髪と青い瞳、白い肌をした、紛れもない鬼でした。

鬼は人だけでなく、人に育てられた鬼をも蔑み、殺す。
書物に描かれていた鬼は、そんなことを当たり前のように行う化け物だったと桃太郎は思い出しました。
桃太郎は、危険を察したふたりによって天井裏に隠され、危機一髪で難を逃れました。

「最後の言い付けだよ。絶対に声を出してはいけないよ」
「いつかこんな日が来ることは分かっていたのにね。ごめんなさいね。本当にごめんなさいね」

桃太郎はふたりが刀で斬り付けられ、血を流し、苦しみながら息絶えていくさまを上から見ていました。

若い女もいたはずだ。塀の外から声が聞こえたぞ。どこにいる。
知らない。ここには自分たちふたりしかいない。
嘘をつくな。まだ苦しい思いをしたいのか。言えば楽に死なせてやるぞ。
ほんとうだ。ここには他に誰もいない。

気が狂いそうでした。
言い付けは守らなくてはなりません。
自分が鬼であることを知ったあの日のように、必死に声を殺して泣きました。
そして、ふたりを殺した鬼の姿を深く心に刻み込みました。

鬼は家の中を荒らし回り、桃太郎を探しているようでした。
桃太郎は涙を流しながら歯を食いしばって、男が諦めるのを待ちました。

「……勘違いだったか。まあいい」

それから鬼は、家の中の金品を奪えるだけ奪うと、ふたりのなきがらに目もくれずに去っていきました。


鬼です。


あの男こそほんものの「鬼」だと、桃太郎は思いました。
自分も、おじいさんも、おばあさんも、何も悪いことはしていないのに。

ふたりのなきがらを丁寧に埋葬し、供養した後。
桃太郎は、初めて言い付けを破りました。
塀の外に出たのです。
「鬼」を退治するために。
広い世界へと、「鬼」を探しに出て行きました。

長かった髪はばっさりと切り、根元から丹念に、絶対に怪しまれないように真っ黒く染めました。書物で知ったところによると、黒い染料というのはとても高級で貴重なのだそうです。おじいさんとおばあさんが自分のために遺しておいてくれたものだと思うと、桃太郎はまた涙がこみ上げてきました。
白い肌は重ねた衣服で出来る限り隠し、見えている部分は化粧で色を変えました。これは日に何度も塗りなおさなければならないので、気をつけなければいけません。
瞼は常に閉じたままにして歩くように心がけ、目が不自由なふりをしました。とても不便でしたが、仕込み杖を持っていても怪しまれない上、「鬼」と戦うための修行にもなったので、悪いことばかりではありません。

顔かたちまではどうしようもないので、すぐに鬼だとばれるのではないかと桃太郎はひやひやしていましたが、彼女の思っていた以上にこれらの仕込みは上手くいきました。
出会う人たちの誰ひとりとして、桃太郎が鬼であることを疑う者はいませんでした。
人というのは、基本的にはおじいさんやおばあさんのように優しい性分のようです。

しかし、外に出てしばらくすると、鬼であることを隠し、目の不自由な女としてひとり旅をするのは危険だということが分かりました。
外には、人でありながら鬼のような真似をする輩もいるのです。

そこで彼女は男装し、「桃太郎」と名乗ることにしました。

これまでよりもさらに生活しづらくなりましたが、しかたのないことです。
「桃」という女の子に戻るのは、鬼退治が済んでからと決めました。

桃太郎は瞼を閉じたまま、「鬼」を探して旅を続けます。
出会う人のだいたいは彼女に親切にしてくれましたが、「鬼」の話をすると、誰もが決まって機嫌を悪くしました。

やつらは、人や家畜をとって喰う。家を壊す。財産を奪って溜め込む。

いや、親に聞いただけの話なんだけどね。怖いねえ。
都のお侍さんたちが、何十年もかけて退治してくれたんだよ。
今でも山奥には生き残りがいるっていう噂もあるけどねえ。
ああ、それも退治されたんだっけ?
本当によかった。

桃太郎は耐えました。
これも、あの「鬼」を見つけ出すためです。
少しでも多くの手がかりを集めなくてはならないのです。

数年の月日が流れました。桃太郎も、二十を間近に控える歳です。
ついに努力の甲斐があり、「鬼」の居場所が明らかになりました。
そこは、桃太郎が全く考えもしていなかったところでした。

なんと「鬼」は鬼退治の勇者として称えられ、都でも一番大きな屋敷に住んでいるようなのです。

それだけで、桃太郎はぜんぶが分かりました。
彼もまたこの数年間、自分と同じように人のふりをしていたのです。
おじいさんとおばあさんを殺して持ち帰った金品を、鬼から取り返したものだと騙り、人々に分け与えることで信頼を得たのです。
自分が苦しい旅をしている間、人々から尊敬されて、穏やかで贅沢な暮らしをしていたのです。

桃太郎は、心が人の髪の色よりも黒くなっていくのを感じました。

程なくして、桃太郎は屋敷に押し入りました。
門番は邪魔をしたので、斬り殺しました。しかたのないことです。

敷地に入ると、武器を持った見張りが何十人もいることが、音だけで分かります。
そして、にっくき「鬼」の声の出所も、そこへの距離もはっきり分かります。
桃太郎は瞼を閉じたままでも、普通の人よりもずっと詳しく周りのようすが分かるようになっていたのです。

桃太郎はまっすぐにそちらへと進みました。
邪魔をする者は全て一太刀で斬り殺しました。
しかたのないことですし、彼女には容易いことです。

瞼を閉じたまま、とても簡単に「鬼」のいる部屋に辿り着きました。
「鬼」は突然の乱入者に明らかに狼狽している様子でした。
無理もありません。「鬼退治」の英雄である自分を尊びこそすれ、憎む者などいるはずもないのですから。

あの時生き残った鬼を除いては。

数年ぶりに人前で瞼を開き、桃太郎は仇の姿を確認します。

あの男です。

おじいさんとおばあさんを、自分から全てを奪ったあの「鬼」です。

「だ……誰だ、君は!? なぜこんなことをする!?」

心底、分からないという顔で「鬼」は叫びました。
桃太郎は青い瞳でまっすぐにそいつを見据え、憎しみのままに刃を振り下ろします。

「お前が鬼だからだ」

「鬼」は死にました。

仇討ちは終わりました。
騒ぎを聞きつけて、屋敷の生き残りが次々と押し寄せてきます。
しかし、桃太郎にもう抵抗する気はありません。
桃太郎は暑くて堪らない上着を脱ぎ捨て、きついさらしも解いて、水筒の水で人の化粧も落としました。
さすがに髪の色だけはすぐには戻せませんが、おおむねこれで懐かしい、幸せだったあの頃の、「桃」という名前の女の子だった自分です。
このまま死ねるのなら、なかなか幸せです。

「何だ!? これはどういうことだ!?」
「まさか……君がやったのか!? なぜだ、いったいなぜこんなことを!?」

不思議です。
集まってきた人々には、鬼である桃太郎をどうこうしようという気が見えませんでした。
鬼は恐れられ、忌み嫌われ、問答無用で殺される存在のはずなのに。
自分が目の前の「鬼」を殺したのは、明らかだというのに。
みなが一様に、「なぜ」、「どうして」、混乱しきった様子でそんな疑問を口にするのです。
桃太郎は答えました。

「この男が私の育ての親を殺したからだ」
「君の、育ての親、だって?」
「待て。旦那様から聞いたことがある。まさか君は、三匹目の……」


桃太郎を囲む人々の表情が凍りつきました。
この時、桃太郎は初めて気付きます。


もう動かない「鬼」は、おじいさんとおばあさんを、自分から全てを奪ったあの「鬼」です。
自分と同じ、金色の髪の、青い瞳の、白い肌の鬼です。

間違いなくあの時と同じ、一切の変装などしていない、鬼の姿のままでした。

自分と同じ、赤い血を流して死んでいました。



桃太郎は、牢屋に入れられました。

ほんとうに不思議です。
牢屋に、鬼がようすをうかがいにくるのです。
見張りの人も、その鬼のことを嫌ってはいないようでした。
どうなっているのでしょう。まさか、ここは鬼の都だったのでしょうか。人々は鬼に支配されてしまっているのでしょうか。なんということでしょう。

桃太郎は、毎日のように訪れるその鬼から、毎日いろいろなことを聞かされました。
話していることの意味は全く分かりませんでしたが、その鬼の顔はなぜかとても悲しそうに見えました。


むかしむかし、よりも、ずっと、ずっと、ずっとむかし。

「この島国では、きみや私のような姿の異国の『人』も、『鬼』と呼ばれ恐れられていた」
「古い文献にはまだ、そうした人たちが『鬼』として記されて残っている」
「『本物の鬼』は生まれたときから髪が白く、血が青く、人にそっくりな姿をしながらも、何百年もの永い時を生きる」
「彼らは、知恵を持ちながら人を、とりわけ小さな子供を好んで喰う」
「……好んで喰う、はずだ」


このへんの話は、とくに意味が分かりませんでした。

桃太郎に分かるのは、おじいさんとおばあさんが優しかったということ。

そしてあの日ふたりを「鬼」が殺し、畳を青い血だまりに変えたということだけです。

そういえば、まだ髪の色が元に戻りません。少しだけ伸びて、いくらかはもとの金色が見えるようになってきましたが、まだまだ黒いぶぶんのほうが多いままです。

いつになったら、あの頃のきらきらした髪の「桃」に戻れるのでしょう。
おじいさんとおばあさんが綺麗だと褒めてくれた女の子に、完全に戻れるのでしょう。
桃太郎はその日が来ることだけを楽しみに、暗い牢屋の中で毎日を過ごしていました。



むかしむかし、あるところに小さな赤ん坊が捨てられていました。

初め、川の岸辺で泣いているそれを見つけたおばあさんには、それがみずみずしい桃のように見えました。
鬼が侍に退治されるようになり、山奥に隠遁し、人を食べなくなってからずいぶん経ちます。
久しぶりに見つけたそれは本当においしそうで、すぐにでもかじりつきたくなってしまいました。
ぎゃあぎゃあという泣き声が食欲をそそります。
おばあさんは桃を頭から食べようと、持ち上げて顔を寄せました。
あんまりおいしそうなので、自然と笑顔がこぼれました。

すると、たった今まで大声で泣いていた赤ん坊は、ぴたりと泣き止みました。
そして、嬉しそうに笑い出しました。

おばあさんは、急に食欲がなくなりました。
なんだかものすごく、それを食べてはいけないような気がしてきました。

いつだって、自分たちを見る人の顔には、恐れや憎しみしかありませんでした。
仲良くしたかったのに、鬼だというだけで嫌われました。
そして、何も悪いことをしていないのに憎まれるので、いつの間にかほんとうに悪いことをするようになってしまったのです。
いっぱい、いっぱい悪いことをしてきたのです。
鬼と呼ばれてあたりまえだと、もう人と仲良くなんかなれるはずがないと、自分ではっきり思えるくらい悪いことをしたのです。

でも、目の前の赤ん坊が鬼を知らず、一人ぼっちじゃなくなったから泣き止んだだけだったのだとしても、なんだか、やりなおしたいと思ってしまったのです。

おばあさんは赤ん坊を連れ帰り、おじいさんに育てたいと話しました。
おじいさんも、それに賛成しました。

一度食べればお終いの桃だと思っていたものから、もっと素敵なものが生まれました。

いっぱい、いっぱい、素敵なものが生まれました。

自分勝手だとは知りながらも、ずっとこの幸せな時間が続けばいいとふたりは思っていました。
でも、やっぱり、幸せは終わってしまいました。
名高い剣豪に鍛えられた屈強な異国人の侍が、ふたりを退治しに来たのです。
鬼に育てられたと知られれば、きっとこの子は幸せになれなくなる。
ああ、やはり自分たちなんかが人の子供を拾ってはいけなかったのです。
ふたりは桃を、天井裏に隠しました。

もっともっと素敵な女の子になって、
素敵な恋をして、
また素敵なものを生み出す「桃」になっておくれ。

そう祈りながら、事切れました。



むかしむかし、あるところに「桃太郎」という女の子がいました。
もちろん、ほんとうの名前ではありません。
ほんとうの名前は、桃といいました。



ほんとうの名前は「桃」だった、「桃太郎」がいました。
[ 2008/09/28 00:51 ] 雑文 | TB(0) | CM(0)

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